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布をそのまま。
Project.

布をそのまま。

Update on.

カーテンというと、どうも少し張り切り過ぎてしまう。分量にこだわったり、レールの新しい付け方はないかなどに考えが行ってしまいそうになる。本当は、空間をゆるく区切るのに、視線を少しさえぎるのに布が一枚かかってさえいれば十分だったりする。

生活のなかで工夫されている布を見ると僕はいつも惹かれてしまう。その空間のオーナーが、何気なく画鋲で布をそのまま窓枠に止めているような光景。カーテンといえるようなものでも無く、でも必要十分で空間に馴染んでいる。小窓の西陽をよけるために応急処置的に留めたバンダナ、旅先で買った手書きの色褪せた地図の図案がプリントされている。キッチンの勝手口の冷気を避けるためにかけた黄色いギンガムチェック。こんな布を見ると、毎日の生活を少しだけ心地よくしてくれる布の存在がとても魅力的に思える。

昨年、岡山県の宿場町、美作にあるビストロ ‘ohayo’の空間に布が必要、と相談を受けた。その土地の食材をシンプルに調理して、どこか懐かしくも新鮮な料理。ゆっくりと時間が過ぎる町の景色のなかで、穏やかな気持になる料理だ。店の奥には手作りの竈(かまど)もあって、薪の燃える香りが店内に漂う。店を切り盛りするのはなんと僕よりもだいぶ若い二人。

はじめに僕はカーテンをしっかりと仕立てるつもりでいたのだけれど、限られた予算のなかでは少しオーバーな提案だった。それならばと、最小限で最大限の効果を出すために、生地だけを決定したらあとは事前のイメージ確認や、設計無しのアドリブで作らせて欲しい、と提案した。図面や仕様書を描く時間、サンプルを縫って分量を確認するなどの時間を全てカットした。「店主が気に入った布を掛けただけ。それが空間のなかで美しく重なり揺れている」そんなイメージだけを頭のなかでかためて、事前の準備は裁断とミシンで少しだけ布に細工。あとは現場で作ることにした。

入口にはブルーグリーンのコットン地。暖簾のようなカーテンのような役割。土間を抜ける柔らかい風を見せてくれる。さらりとした肌触りはさばきが良くドレープが美しい。奥の部屋には生成りの柔らかいコットン地。たっぷりの分量を床に垂らして温かみをもたせた。

梁に真鍮の釘を打って、ミシンで硬めたハトメを通す。布の重なりと、分量をその場で検討しながら設置。布がそのままそこにある。ほとんど縫われていない布は、布のまま自由に揺れて光を受け止める。

真鍮の画鋲、直線縫いミシンで重ねたステッチとハトメ

生成りのコットンは、視線を緩やかに遮りながら空間を区切る

入口の布、暖簾のような、カーテンのような

重なりが光に透けて美しい

Date: 2023/08
Fabric by STUDIO MOMEN
@ohayo.mimasaka → https://www.instagram.com/ohayo.mimasaka/